A-0002_パキポディウム グラキリウスを丸く美しく育てるために心掛けたい事柄とは?私たち栽培する人のスタンスについて
孫子の言葉に ❝彼を知り己を知れば百戦殆からず❞
問題を解決するためには、相手(問題)をよく調べ吟味し、自分の力量を理解したうえで対処すればうまくいくものだ…とあります。
前回の投稿では相手(グラキリウス)がどんな植物なのか大まかな部分に触れました。
前回の投稿(前編)は以下をご覧ください↓
今回は後編として己(栽培する人)がどうあるべきかについて独断と偏見で書いていきます。
以前SNSにも投稿したことがあるのですが、私はグラキリウスの栽培方法はいくつもある、むしろ栽培する人の数だけあっていいと考えています。
それは例えば登山で山頂に至るルートがいくつもあるように、グラキリウスの栽培も正解(極み)に至るプロセスや手法は栽培する人それぞれが環境と共に作りあげていくべきだという考え方です。(昔は未踏の地図と表現しました。)
グラキリウスはパキポディウムの中でも栽培し易い植物で、ある程度日本の環境に耐えられるので、初心者でもセンスが良くて、購入した株が健康ならほぼ枯らすことなく育てられます。
栽培する者の心得のような仰々しいことを今さらブログに書く必要もないのかもしれませんが、それなのになぜわざわざ書いているかというと、枯らさずに育てることと美しく育てることには大きな違いがあるからです。
適当に育てても実生は決して現地球のようにはならないし、現地球は徒長してしまい美しさを何年もキープすることは困難です。
特に実生苗についてはここ数年で現地球が大量に輸入されている現状を踏まえると現地球を超える美しさを実現することには価値があると考えています。
本稿では自由度の高いグラキリウス栽培でもこれをやったら失敗するという事例や初心者が陥りやすい誤解についていくつか挙げ、美しく栽培する方法を浮き彫りにしていきたいと思います。
①グラキリウス(グラキリス)に対する大きな誤解
SNSなどでグラキリウスを"まん丸に太った"とか"でっぷり、どっしり"などの形容詞で表現されるのをよく見ます。確かにあの丸く重たそうな姿をみたら私たちは自分たち人間に置き換えて、よく肥えてるなぁ~などと思ってしまいがちです。しかし私はこういう表現がグラキリウス本来の姿を誤って認識させる要因ではないかと考えています。
よく"野生動物に肥満はいない"と言われますが、原産地のグラキリウスも然り。
グラキリウスが自生している土地はマダガスカルの南西、イサロ国立公園付近(標高800~1,200m程度の山岳地帯であり、砂岩壁や山の頂上など)です。
肥沃な土地とはとても言えない土、しかも少しでもひょろっと伸びようものなら強風でぽっきり逝ってしまいそうな岸壁などにしがみついているわけです。
私には毎日の寒暖差、強風、紫外線、栄養も水分も乏しい土に耐えて小さくうずくまっている姿に見えます。
"でっぷりとまん丸に太ったグラキリウス"と"ギュッと小さく丸くうずくまっているグラキリウス"では同じ丸い姿をしていても中身はまるで真逆のものです。
私たちの栽培方法もこの二つの姿どちらをイメージしながら栽培するかでまるで違う方法を選ぶことになると思いませんか?
②グラキリウス(グラキリス)栽培環境における大きな誤解
私は何度かグラキリウスを育てる上で何が大事かについて質問されたことがあります。
そんな時いつも答えに困ってしまい、日光と風と水などと当たり前の回答をしていました。
それはある意味正しく、質問に対する回答としては最適解のようにも思えます。
しかし、この回答には根本的なところに誤りがあります。
植物の栽培環境は日光+風+水という足し算で出来ているわけではないからです。
時には引き算も必要で、陽と陰のせめぎあっている真ん中が正解の環境なのです。
今同じように聞かれたら、1番大事なのはバランスだと答えるでしょう。
バランスとはどういうことかと言うと、分かり易く図で描いてみたいと思います。
グラキリウスの栽培における環境の要素を分解して並べてみました。上側が成長要因、下側がマイナス要因です。この図の青線ようになるべく円を描くような環境で栽培した時、丸く育てることが出来ます。
しかも、円が大きい程成長が早く、円が小さい程成長が遅い、そして1番小さい黄線の円が休眠・停止のギリギリラインです。
これがバランスという考え方です。
図にするのは簡単ですが、その要素の項目の選定、要素ごとの数値や塩梅の見極めが至難の業であり、それこそがノウハウなのですが、意識するだけでも栽培の仕方が大きく変わるはずです。
この考えでいけばあまり陽当たりの良い環境を持ち合わせていなくてもバランスが円になるよう注意をすれば、徒長させずに栽培することも出来るはずです。ただし最適な環境に比べて成長が遅くなるというわけです。
ここで一番重要なことはマイナス要因=成長阻害要因に意識を向けるということです。
成長要因の数値が高いときは成長阻害要因の数値も高くなくてはなりません。
例えば日光が強いとき、阻害要因の紫外線も強いというような具合です。
常にバランスを念頭において栽培すれば、突飛な行動にもストップがかかり失敗も減ると思うので実践的な考え方だと自負しています。
よく徒長させてしまうという人は成長要因盛り盛りの足し算環境で栽培しているのではないかと思います。成長阻害要因に意識を向けると改善できると思いますよ。
このバランスについては追々詳細を書いていきます。
③温室で栽培する場合の注意点
皆さんはグラキリウスを栽培する時に温室は必要だと思いますか?
やはりどうしたって温室は憧れですが、私は温室を持っていません。もちろん購入資金と場所がないというのが最大の理由ですが、以前簡易温室にコーデックスを入れて屋外で管理した際、ほぼ全滅させてしまったことがあり、その温室を処分したという経緯があり簡単な温室すら持っていない状況です。
そんな私の今の栽培方法をご紹介すると、だいたい春先10℃〜20℃の桜が散りだす季節に屋外に出して、梅雨〜真夏は雨ざらし、11月の半ば(日中17℃・夜間7℃くらい)になったら室内に取り込みなるべく窓ぎわで管理、完全に落葉したら日当たりの悪い場所と交換(置き場がないので)という感じでやっています。
※窓際管理も家族の反対で難しくなってきました。
お世辞にも最適な環境とは言えないと思いますが、この栽培方法の方がパキポディウム系はうまくいっている印象です。
また、私は数年前、まだこんなにグラキリウスが簡単に手に入るようになるよりも前、よく近くのサボテン園に足を運んでいました。そこの園主はコーデックス類を西向きの温室に詰め込んで、送風も行わず、ただひたすら加温し続けていました。そんな園主が口癖のように言っていたのが、「パキポディウム(特に原産地球)は日本ではうまく育てられない。仮にうまくいっても3年で枯れてしまう。」というものでした。以前は3年で枯れるという話はよく言われていて、私もよく諭されたものです。やめとけ、金の無駄だと。
この私とサボテン園主の例は何がいけなかったのでしょうか。
温室が悪いわけではありません。温室で作り出した環境が植物に合わなかったのです。
どちらも空気の循環がなく、高温対策が不十分であることは容易に分かると思います。
もし、温室を建てる、もしくはビニル(ガラス)温室での栽培を検討されている方は屋外で栽培するよりも難しい環境作りを求められることを覚悟したほうがいいと思います。
何しろ自然の中には普通に存在する必要な要素を0から人工的に作り上げていかなくてはならないわけですから、そこにはととんでもない労力とコストがかかってきます。
私みたいな無精者には向かない方法だと思いますし、前述の方法でもバランスに意識を向ければ十分丸く育てることができると私は考えています。
昨今、巷で販売されている実生のグラキリウスの中には残念ながら形が崩れてしまっているものも見かけます。
グラキリス(や他の植物)をなるべく沢山(歩留り良く)早く大きく育てるというのは利益を追求しなくてはならないプロの世界ではセオリーですし、重要なことであることは言うまでもありません。
しかしそれは残念ながら生産性と品質を天秤にかけて多少品質を犠牲にした妥協の産物なのかもしれません。
もし自分で0から栽培するなら、自分の環境に見合ったスピードで成長させるようにすればグラキリウスもきっと応えてくれると思います。
大丈夫、グラキリウスと何十年も付き合っていく覚悟があれば、最初の10年くらい全然成長しなかろうが何にも問題はありません。(と自分に言いきかせてます。)
輸入球も輸入時の形が100点なのですから現状維持を目指すべきだと思います。
さて第二稿も終了ですが、またも長々と書いてしまい申し訳なく、最後まで読んで頂いた方には感謝しております。
今回の稿で少し書いたように構成要素を分解してその構造を一つ一つ見ていくことでより一層グラキリウスのことが分かってくる予感がします。
次回はグラキリウスの構造に焦点を当てて考えていきたいと思います。
お付き合い頂きまして、ありがとうございました。